RAG×ファイルメーカーで実現する高精度AI:PDF活用のテーブル設計と実装ガイド

はじめに
AI技術の進化は、ビジネスのあり方を根底から変えつつあります。
特に、自社の独自データを活用して高精度な回答を生成する「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」は、多くの企業から注目を集めています。一方で、「AI導入は難しそう」「専門知識がないと扱えないのでは?」と感じる方も少なくありません。
そこで本記事では、ローコード開発プラットフォームであるFileMaker を活用し、RAG機能を驚くほど簡単に実装する方法を解説します。FileMaker の柔軟性とAIの力を組み合わせることで、これまでにない革新的なデータ活用がどのように可能になるのか、具体的なサンプルアプリを交えながらご紹介します。
目次
🤖RAG (検索拡張生成)とは?FileMaker と相性が良い理由

RAGとは、一言で言えば「検索(Retrieval)」と「生成(Generation)」を組み合わせたAI技術です。
一般的な生成AIが持つ広範な知識に加え、自社マニュアルや顧客情報、機密性の高い過去の議事録といった独自のデータベースをリアルタイムで参照します。これにより、AIは以下のようなメリットを提供します。
- ハルシネーション(事実に基づかない回答)の抑制:根拠のある情報のみを基に回答を生成するため、企業にとって最も重要である信頼性が向上します。
- 最新情報への対応:常に最新の社内データを参照できるため、情報が古くなる心配がありません。
- 専門的な質問への回答:社内の専門知識やノウハウを学習させることで、専門的な問い合わせにも対応可能です。
RAGは「検索 → 生成」という2段階で動作します。
まずAIが質問に関連する情報をベクトルデータベースから検索し、その取得結果を基に回答を生成します。
⚙️FileMaker×RAGの仕組み|アーキテクチャと連携メリット
FileMaker は、その柔軟なデータベース機能とAPI連携の容易さから、RAGシステムとの親和性が非常に高いプラットフォームです。FileMaker をRAGアーキテクチャに組み込むことで、データの管理からAIとの連携までをシームレスに実現できます。
🏛️3層アーキテクチャの全体像

FileMaker を用いたRAGシステムは、主に以下の3層構造で構成されます。
1. AIモデル層:ユーザーからの質問を解釈し、RAGスペースから取得した情報を基に最適な回答を生成します。
2. データベース層(FileMaker ):社内のナレッジやドキュメントなど、AIに参照させたい元データを格納します。
3. RAGスペース層:FileMaker から取得したデータをAIが検索しやすい「ベクトル形式」に変換し、索引を保存します。
💻慣れたFileMaker 画面で「高度なAI検索」を利用し業務効率を劇的に向上
このアーキテクチャにより、使い慣れたFileMaker のインターフェースでデータを管理しながら、高度なAIの恩恵を受けることができます。例えば、営業担当者が外出先から「A社の過去のトラブル事例と解決策を教えて」と質問するだけで、AIがFileMaker 内の膨大な報告書を検索し、要約して回答するといったユースケースが実現可能です。
✨実践!FileMaker RAGサンプルアプリの機能と画面解説

ここでは、FileMaker で構築したRAGサンプルアプリの画面を見ながら、具体的な機能と操作の流れをご紹介します。このアプリでは、FileMaker の技術資料(PDF)をRAGの知識ベースとして登録し、JSON関数に関する質問にAIが回答します。

🔄RAG機能を支える主要なテーブルとフィールド設計
このRAG機能を実現するため、FileMaker のデータベースはシンプルかつ効率的に設計されています。
中心となるのは、AIとのやり取りを記録するLogテーブルと、RAGの設定を管理するRAG_TESTテーブルです。
- RAG_TESTテーブル:
- g_質問: ユーザーが入力する質問内容をグローバル格納するフィールド。
- g_役割: AIの役割を設定するグローバルフィールド。
- g_回答: AIからの回答を一時的に表示するグローバルフィールド。
- PDF: 知識ベースとなるPDFファイルを格納するオブジェクトフィールド。
※「g_質問」「g_役割」など頭に g_ が付くフィールドは、画面間で共有される“グローバルフィールド”です。複数レイアウトで同じ入力内容を扱う場合に便利です。
- Logテーブル:
- 質問内容: 問い合わせた質問の履歴を保存。
- 回答: AIからの回答の履歴を保存。
- 開始時刻/終了時刻: AIとの通信にかかった時間を記録。
👨💻PDF登録〜回答生成までの処理フロー

1.AIアカウント設定 / RAGアカウント設定(準備)
OpenAI APIキーやベクトルデータベースのAPIキーなどを設定します。
2. RAG登録(知識ベースの登録)
まず、AIに学習させたいPDFファイルをアップロードし、「RAG登録」ボタンをクリックします。これにより、PDFの内容がベクトル化され、RAGスペースに保存されます。
3. 役割(Roleの設定)
AIにどのような立場で回答してほしいかを指定します。例では「あなたはFileMakerの開発者です。」と設定しています。
4. 質問
AIに聞きたいことを入力します。例では「jsonの使い方を教えてください」と質問しています。
5. 問い合わせと回答生成
「問い合わせ」ボタンを押すと、AIが登録されたPDFの内容を基に回答を生成し、「回答」欄に表示します。
サンプル画面の回答欄には、FileMaker のJSON関連関数(JSONSetElement,JSONGetElementなど)が、概要や使用例と共に的確にリストアップされています。これは、AIが単に一般的な知識で答えるのではなく、提供されたPDF資料の内容を正確に理解し、要約している証拠です。
【FileMaker 開発者必見】RAGを実現するスクリプト詳細解説
- RAG登録スクリプト
PDFなどのドキュメントを知識ソースとしてベクトルデータベースに登録するためのスクリプト。

- 問合せ対応スクリプト
ユーザーの質問と役割、そして検索で取得したコンテキストを組み合わせてLLMへのプロンプトを生成し、APIを呼び出して回答を取得、フィールドに設定するまでの一連の流れの処理。

📈FileMaker ×RAGの実用的なビジネス活用例
RAG技術は、情報の正確性が求められる様々なビジネスシーンで強力なツールとなります。
FileMaker で構築された業務システムにRAGを組み込むことで、以下のような具体的な応用が考えられます。
RAGによる顧客対応の高度化:FAQ/マニュアル検索で顧客満足度20%向上へ

カスタマーサポートの高度化 膨大な製品マニュアル、FAQ、過去のチャット履歴などを知識ソースとしてRAGシステムに統合します。顧客からの「洗濯機の特定のエラーコードA-05は何を意味しますか?」といった具体的な質問に対し、システムは即座に該当するマニュアル箇所を特定し、「A-05は排水フィルターの詰まりを示しています。フィルターを清掃してください」と正確な手順を案内できます。推定でこれにより、顧客対応時間の平均30%削減、顧客満足度の20%向上といった効果があります。
社内ナレッジの一元管理と情報探索:RAGで業務効率を25%削減

社内ナレッジ管理と業務効率化 議事録、報告書、技術仕様書、人事ポリシーなど、企業内に散在するあらゆる形式のドキュメントをRAGで一元管理し、全従業員が自然言語でアクセスできるようにします。新入社員が「〇〇プロジェクトの進捗状況と担当者は誰ですか?」と問い合わせると、システムは過去のプロジェクト管理ツールやチャット履歴から関連情報を抽出し、最新の状況と担当者の連絡先を提供します。推定で、これにより、情報探索にかかる時間が25%削減され、新入社員のオンボーディング期間を1週間短縮できます。
法務調査の時間50%削減:RAGが実現する根拠条文・判例の瞬時特定

法務・コンプライアンス業務の効率化 複雑な法律条文、判例、規制文書、契約書などをRAGにインデックス化します。法務担当者が特定の法的質問をすると、根拠条文や関連判例を瞬時に特定できます。例えば、ある契約条項の解釈について問われた際、類似の判例や関係法令を抽出し、その条項が過去にどう解釈されてきたか、最新の法改正でどう影響を受けるかを提示します。推定で、これにより、法的調査にかかる時間を平均50%削減し、コンプライアンスチェックの漏れを15%減少させることが可能です。
医療診断の精度向上と時間40%短縮:最新論文を参照するRAG活用

医療診断支援の精度向上 最新の医学論文、臨床ガイドライン、症例データベース、患者の電子カルテ(EHR)といった専門性の高い情報をRAGで横断的に検索・参照することで、医師の診断や治療計画立案を強力にサポートします。稀な疾患の診断が疑われる際、医師が症状を入力すると、システムは関連する最新の研究論文や類似症例を抽出し、鑑別診断の候補や推奨される検査プロトコルを提示します。推定で、これにより、医師は診断までの時間を最大40%短縮し、見落としのリスクを軽減できます。
✅本記事のまとめ
本記事では、FileMaker とRAGを統合することで、専門的な知識がなくても自社データに基づいた高精度なAIチャットボットを構築できることを示しました。PDFや社内ドキュメントを活用した検索・要約・回答が可能になり、顧客サポートの自動化による業務効率化やナレッジ共有にも大きく貢献します。
まずは小規模なPDFをRAGスペースに登録し、FileMaker を通じてどのように回答が生成されるか試してみてください。
新しい業務改善のアイデアが必ず見つかるはずです。
🔗参考資料
🎥Claris公式 youtube
LClaris FileMaker 2025 AI 新機能 RAG(検索拡張生成)
LClaris FileMaker 2025 ~RAGを使ってみた
✏️RAG応用編「FileMaker とAWS Bedrockに関する記事」
L第1回:AWS Bedrock|AI 業務改善でデータが「稼ぐ力」に変わる
🌐 サポータス公式サイト(ソリューション紹介)
L SNS( Twitter | Facebook)
L FileMaker 導入事例まとめ